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福岡高等裁判所 昭和31年(ネ)486号 判決

控訴人 武藤蹄一

被控訴人 帝国建設株式会社破産管財人 永田長円

被控訴人 同破産管財人 山本卓一

主文

本件控訴を棄却する。

原判決主文第一項を次のとおり変更する。

控訴人は被控訴人等に対し金一八七、三三五円及びこれに対する昭和三〇年一一月二六日より右完済まで年五分の割合による金員を支払わなければならない。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

訴外帝国建設株式会社が昭和二九年七月二八日破産申立を受け、同年九月三〇日佐賀地方裁判所において破産を宣告され、被控訴人両名がその破産管財人に選任されたこと、訴外梶原俊一は右破産会社に対し住宅建築工事契約金四五〇、七一七円の債務を負担していたところ、控訴人は破産会社に対し被控訴人等主張の執行力ある判決による金一八七、三三五円の債権を有し、該債務名義に基き佐賀地方裁判所に破産会社の右訴外梶原に対する債権の差押竝転付命令を申請し、同裁判所は昭和二九年四月二四日右債権のうち請求債権額一八七、三三五円相当部分につき差押竝転付命令を発し、該命令はその頃債務者及び第三債務者に送達されて債権転付の効果を生じたこと竝に控訴人はその後おそくとも昭和三〇年一一月二五日までの間に第三債務者たる訴外梶原から右転付債権全額の弁済を受けたことは当事者間に争がない。

各成立に争のない甲第一六、一七、二〇二一、二二、二六号証、各裁判所認証部分の成立に争なく、その余の部分も真正に成立したものと認むべき甲第二乃至第七号証、第八号証の一、二、第二五号証の一乃至五、各真正に成立したものと認められる甲第二四及び第二八号証を総合すれば、本件破産会社は月賦償還住宅建築請負を営業目的とし、多数の契約加入者を有していたが、その契約内容は必ずしも住宅建築を目的とせず、各加入者から契約申込金を徴収し、一定期間経過後は加入者の申出により所定の配当金を附してこれを返還することを約したもので、かの保全経済会を初め当時全国的に流行した利殖投資会社と類似の業態であつたところ、昭和二八年六月九州地方大水害の影響を受けて新規加入者が減少したのと、保全経済会その他類似会社の支払停止が新聞紙等で大きく報道されたため、多数契約加入者が動揺して契約申込金の返還請求が殺到し、ついに同年一〇月頃から各債権者に対する支払をほとんど全面的に停止するのやむなきに至つたこと、そのため契約加入者等は各地区毎に債権者大会を開いて対策を協議するものもあり、同年一二月頃佐賀新聞、西日本新聞等に破産会社の支払停止が報道されるやこれに対する世人の関心も高まり、契約加入者は競つて破産会社に対し契約申込金返還請求の訴訟や支払命令申請をなし、ついに破産会社は昭和二九年一月八日会社更生法による更生手続開始の申立をなし、爾来完全に支払を停止したが、右申立は更生の見込なしとして棄却され、続いて上記破産申立及び破産宣告を見るに至つたこと、破産会社の契約加入者中には前に住宅建築を実施した者も多数あり、同会社はこれに対しそれぞれ月賦償還の工事請負金債権を有していたので、前記訴訟や支払命令により債務名義を得た債権者等はその後破産宣告に至るまでの間に競つて右請負金債権の差押竝転付命令申請をなし、その数は数百件に及び、控訴人のなした本件差押転付もその一であることを各認めることができる。

成立に争のない乙第一号証は昭和二八年一二月六日附破産会社から控訴人宛の書面(その頃破産会社から同様書面を一般債権者に配布したものと認められる)であるが、その内容は要するに返還期の到来した契約申込金につき、会社の窮状を訴えて支払猶予及び契約継続を懇請する趣旨のものであり、また原審証人中溝作太の証言によれば、控訴人の破産会社に対する前示債権は昭和二八年四月に返還期の到来した元金二〇万円の契約申込金であるところ、その頃一部内金の支払を受けたのみで、その余はその後度々の請求にも拘らず支払を得られなかつたため、訴訟を提起して判決を得、本件債権差押竝転付命令を申請したものであることが認められる。

以上の事実に徴すれば、控訴人が本件債権差押竝転付命令申請の当時、破産会社の支払停止の事実を知つていたことは容易にこれを推認し得られるところである。当審証人武藤武、同江口恵吉の各証言中右と異る部分はとうてい措信し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

さすれば控訴人が本件債権差押竝転付命令により破産会社の第三債務者に対する債権の転付を受け、よつて控訴人の破産会社に対する債権につき弁済の効果を生ぜしめた行為は、支払停止後に悪意でなされた債務消滅に関する行為に該当するから、破産管財人たる被控訴人等が破産法第七二条第二号第七五条に基き本訴においてなした否認権行使により、右弁済(債権転付)は一般破産債権者と受益者たる控訴人との関係においては当初に遡つて無効に帰したものとなさなければならない。故に右否認の効果として、否認権行使当時に転付債権が現に存する場合は、破産法第七七条第一項により該債権は当然破産財団に復帰するわけであるが、本件においては否認権行使前である昭和三〇年一一月二五日以前に既に第三債務者たる訴外梶原から転付債権者たる控訴人に対し転付債権全額の弁済を了したことは前示のとおりである。そして、右弁済は、その当時においては正当な転付債権者であつた控訴人に対しなされたものであるからもとより有効であり、該弁済により本件転付債権は既に消滅したものというべく、本件否認権行使によつても一旦消滅した転付債権が復活する理由はない(否認の効果は既に弁済を了した第三債務者には及ばない)。そこで受益者たる控訴人としては、右転付債権を破産財団に復帰せしめることが不能となつたのであるから、これに代えて本件否認の目的となつた弁済(債権転付)により受けた利益、すなわち第三債務者から受領した弁済金額を破産財団に償還すべき義務あることは当然である。そして否認の効果としての右償還義務は破産法上の法定義務であつて、これに対しては受益の日以降の法定利息を附すべきものと解するを相当とする。けだし、否認権の行使は破産財団を否認の目的とせられた行為が当初からなかつた状態に復元することをその目的とするものだからである。

よつて控訴人に対し右弁済受領金一八七、三三五円及び前示弁済受領の後である昭和三〇年一一月二六日以降年五分の法定利息の支払を求める被控訴人等の本訴請求は正当としてこれを認容すべく、右と同旨に出た原判決は結局において正当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、被控訴人等は当審において法定利息の起算日につき請求を減縮したから原判決を主文のとおり変更することとし、民事訴訟法第三八四条第九五条第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹下利之右衛門 裁判官 小西信三 岩永金次郎)

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